撮影現場での正確なイメージ共有により、撮影から編集まで一貫したルック管理を実現
テレビ CM を中心に、映画やドラマ、ウェブ CM まで多岐にわたる DIT 業務とカラーグレーディングを行う合同会社 Ardhi。同社は、代表である阿部 弘明氏の豊富な経験を基に、2022 年に設立された。映像制作の現場では、精密かつ緻密なカラーマネジメントが不可欠だ。そんな Ardhi の撮影現場で、効率と品質を高めるために重要な役割を果たしているのが、AJA 社のカラーマネジメント用コンバーター『ColorBox』だ。
導入先
合同会社 Ardhi (アルディ、以下 Ardhi) は、テレビ CM を主軸に、映画やドラマ、ウェブ CM などの映像撮影業務を手掛けている。2022 年末に設立された同社は、代表の阿部 弘明氏 (以下、阿部氏) の長年の DIT (デジタル・イメージング・テクニシャン) およびカラーグレーディングの経験に支えられている。Ardhi は「映像で世界を変える挑戦を。」をモットーに、映像を通じて多くの人々にワクワクする未来や希望、感動を届けることを目指している。 Ardhi が担当する撮影現場には、AJA 社のカラーマネジメント用コンバーター『ColorBox』が欠かせない。『ColorBox』を導入した背景や活用法について、合同会社 Ardhi 代表の阿部氏に話を伺った。
作品作りの鍵となる Log 撮影とカラーマネジメント
映画や CM などのプロフェッショナルな映像制作では、カメラが捉えた映像データを広いダイナミックレンジで記録する Log 撮影が普及している。Log 撮影は、通常の撮影と比較してより多くの情報を圧縮して保持することができ、黒潰れや白飛びを防ぐだけでなく、編集工程での細かな色調や露出の調整が可能になる。
しかし、Log 撮影による映像は色が薄く、コントラストも低いため、そのままでは監督を始めとする撮影関係者間で、最終的な仕上がりのイメージを共有するのが難しい。この問題を解決するために必要なのが、「LUT BOX」と呼ばれるツールだ。LUT BOX は、撮影された映像にリアルタイムで色補正や色調整を施すツールであり、LUT (ルックアップテーブル) という色変換テーブルを使用して映像に色変換処理を加える。LUT 処理された映像をモニターで確認することで、撮影時のイメージ共有が容易になるのだ。
また、撮影の段階で光や照明を含めてしっかりと調整しておくことは、ポストプロダクションのカラーグレーディング (色調整) 作業の質と効率にも大きく影響する。特に色彩や画質が重視される映画やドラマ、CM 制作において、撮影時の正確なカラーマネジメントは、優れた作品を作り出すための重要な鍵であると言える。
Ardhi では当初、他社の LUT BOX を使用していた。業務の拡大に伴い追加購入を検討していたのだが、世界的な半導体不足の影響で入手が困難な状況に。代わりとなる製品を探していたところ、2022 年に AJA 社から『ColorBox』が登場した。Ardhi が既にカラーグレーディングで使用していた POMFORT 社のオンセットカラーグレーディングソフトウェア『LiveGrade』に対応していたことや、超低遅延である点などに魅力を感じ、『ColorBox』の導入を決定した。
『LiveGrade』での色調整と『ColorBox』を通じた超低遅延モニタリング
Ardhiでは、『ColorBox』を『LiveGrade』と組み合わせて使用している。『LiveGrade』搭載のパソコンでリアルタイムにカラーグレーディングを行い、カメラからの映像ソース (SDI) を『ColorBox』経由でモニターに送出している。撮影現場でのルック管理では、このワークフローが基本となっている。
◾️ HDR 制作に対応したコンパクトな LUT 色変換機能搭載コンバーター『ColorBox』
AJA の『ColorBox』は、プロフェッショナルな映像制作におけるカラーマネジメントをサポートするコンバーターで、高品質のカラーグレーディングと色調整をリアルタイムに実行できる。
【 ColorBox の主な特徴 】
- SDR / HDR / WCG 信号に対応
- 12-bit 4:4:4 または 10-bit 4:2:2 の 12G-SDI 入出力に対応
- 12-bit 4:4:4 または 10-bit 4:2:2 の HDMI 2.0 出力に対応
- 3D LUT または浮動小数点演算を使用した高精度なカラースペース変換
- 5 種類のカラー処理パイプラインを搭載
- AJA Color
- Colorfront モード (オプション)
- ORION-CONVERT モード (オプション)
- BBC HLG LUT モード (オプション)
- NBCU LUT モード
- 1 RU に 4 台まで収納可能なコンパクトサイズ
- 超静音ファンを採用
- ビデオの走査線 1/2 以下の超低遅延
『ColorBox』を導入して感じたメリットについて、阿部氏は以下のように述べている。
阿部氏「ColorBox は LiveGrade に対応しているため、従来のワークフローを変更することなく組み込むことができました。また、ビデオの走査線半分以下の超低遅延性能により、撮影中のモニタリングでも遅延が気にならないのが大きな利点です」
4K / HDR / 12G-SDI 対応で、将来を見据えた制作環境を構築
別撮りした背景などを合成する撮影では、『ColorBox』を 2 台使用してカメラ映像と合成素材の色調整を行うこともある。当初は『ColorBox』と他社の LUT BOX を組み合わせて運用していたが、色の再現性に差が生じ、正確なカラーマネジメントが難しかったという。その結果、同じ撮影現場では機材を統一することが最善であると判断し、『ColorBox』を追加で購入するに至った。
阿部氏「他の製品も検討しましたが、ColorBox は色の再現率が高く、階調が広いと感じています。特に、暗部の調整がしやすく、今では ColorBox 2 台が必要不可欠な機材になっています」
また、マルチカム撮影においても『ColorBox』を重宝しているとのこと。異なるタイプのカメラやレンズを使用する場合、カメラ側での色調整には限界がある。その際に、特定のカメラにのみ LUT を適用して色を微調整している。
阿部氏「過去に HDR の案件を扱った経験がありますが、その際はかなり苦労しました。ColorBox があれば作業効率が格段に上がっていたと思います。ColorBox は 4K・HDR に加えて、12G-SDI にも対応しているので、将来的な備えにもなっています」
Ardhi では、フル HD での CM 撮影が多いが、HDR 案件の経験もあり、今後は『ColorBox』の機能をさらに広く活用していきたいと阿部氏は語っている。
導入製品
取材協力
- 合同会社 Ardhi