オンセット 4K / HDR に対応した最新のワークフローを AJA 製品で構築
高解像度の HDR (ハイダイナミックレンジ) ワークフローが、プロダクションおよびポストプロダクション関係者の話題に上るようになって約 10 年が経つ。そして、4K/UltraHD および HDR の技術や手法が急速に発展する現在、プロダクションへの導入には The Rebel Fleet 社 をはじめ、ワークフローの先駆者たちが欠かせない存在となっている。
同社が提供するビデオアシスト、DIT、デイリー (現場確認用の映像データ) のサービスについて、同社 CEO の Mike Urban 氏にお話を伺った。このサービスにより、地域のプロダクションは、オンセットからデイリー、そしてポストプロダクションへとコンテンツが移動したときにも、一貫した画質の保持が可能となっている。
The Rebel Fleet の主な事業を教えてください。
The Rebel Fleet は 2015 年に、ビデオアシスト、DIT、デイリーのソリューションおよびサービスを提供する会社として、ニュージーランドのオークランドで設立されました。2020 年からはオーストラリアでも事業を展開し、2022 年はニュージーランドでポストプロダクションのサービスを始めています。
当社のクライアントが手掛けるプロジェクトは話題のドラマシリーズ、映画、TV 番組、コマーシャルなど多岐にわたります。また、アジア太平洋地域全体で、大手ストリーミングプラットフォームや映画配給関係の大型プロジェクトにもサービスを提供しています。
この仕事に就いたきっかけをお話しいただけますか?
私のキャリアは 2000 年代の初頭、画像キャプチャの技術者として始まりました。その頃は、海洋関連の企業からビデオ編集の仕事を請け負っていました。それから、照明技師に転職し、医療ドラマ「Shortland Street」に参加しました。その後、TV 制作会社の技術部門に紹介され、スポーツの生中継やドラマの脚本を担当していました。 そして DIT 業務を行うようになった頃、テクノロジーの面白さに魅了されたのです。
数年後には 3 人のプロフェッショナルと協力して The Rebel Fleet を立ち上げると、ビジネスはすぐに軌道に乗りました。現在では、ニュージーランドとオーストラリアにオフィスを構え、13 人の正社員を雇用するまでに成長しています。
どのようにクライアントさんとお仕事を進めていますか?
クライアントさんは、それぞれのプロダクションの要件に合ったワークフローを求めています。よくあるのは、使用するカメラは決まっていて、そのカメラの最高画質の維持、データのバックアップ、ビデオの処理と配信を任せたいという要望です。当社は、プロダクション環境、予算、スタッフの人数、スタジオ要件などに合わせて、クライアントさんのパイプライン開発をサポートします。
主力のワークフローテクノロジーを教えてください。
オンセットのビデオアシストと DIT ワークフローには、SDI ルーターの AJA KUMO 1616 / KUMO 3232 、そのコントロールパネル KUMO CP、AJA ミニコンバーターを使用しています。採用している理由としては、AJA 製品は品質も保証も優れているうえ、私たちが請け負っているような刻々と環境が変化する仕事では、信頼性が最も重要だからです。当社が機器に望む信頼性に、AJA 製品はしっかり応えてくれています。
当社はビデオアシストソフトウェアとして、QTAKE を導入しています。QTAKE はネットワークインターフェイスを介してシームレスに KUMO ルーターと統合できるため、事前にルーターを素早く簡単に設定しておけます。すべてのモニターでプレイバックやライブフッテージを表示したいといったクライアントさんからの要求も、問題なく対応できます。2 台または 3 台のカメラモードを事前に設定しておけば、Stream Deck のボタンを押すだけで、設定の読み込みや操作が行えます。さらに変更内容もルーターに反映されます。毎日繰り返し手動で変更することに比べたら、ずっと効率的です。ネットワークエコシステム内のすべての機器にこうしたコントロールするための仕組みを組み込んでいるため、クライアントさんはクライアントさん自身にしかできない業務の追求により多くの時間を割けられます。それと、KUMO ルーターが 12 ボルトのバッテリーで動作するのも便利です。
オンセットの標準はいまだに SDR ですが、HDR 機器を導入するクライアントさんも増えてきました。当社では、AJA FS-HDR や AJA HDR Image Analyzer 12G を Colorfront と組み合わせ、コンテンツをカメラからデイリーへと渡るすべての工程で、クライアントさんが求めるルックを一貫して維持できるようにしています。
HDR を扱ってきた経験について詳しく聞かせてください。
フル HDR のワークフローが広く導入するには、依然として費用が高いハードルとなっています。そこで活躍するのが AJA FS-HDR のような優れたツールです。FS-HDR によって高い画質を保ったまま、SDR と HDR の変換を簡単に行えます。オンセットでは 1 〜 2 台のモニターで、カメラから LOG 信号を受け取り HDR が正しく表示されているか判断しています。そして、クライアントさんが希望する場所に、HDR や SDR を送出します。
また、Pomfort LiveGrade Pro をダイナミック LUT ボックスとして使用しています。当社がダイナミック LUT ボックスに望む要件を 1 台ですべて満たすラックマウント型のデバイスです。
オンセットで HDR をモニタリングする際には、HDR スコープを見る必要があります。これが AJA HDR Image Analyzer を組み込む理由です。Colorfront の表示と同じスコープを使い、専門的な HDR モニタリングをオンセットで実現しています。デイリーと一貫している点が非常に便利です。
クライアントさんと、あるいは貴社内で HDR について話すとき、どんな話題が上がりますか?
視聴者さんにとって、HDR が優れた視聴体験を提供することに疑いの余地はないでしょう。しかし、業界はまだ途上にいます。撮影監督さんやカラリストさんたちの多くは、今後のさらなる普及を楽しみにしているようです。殆どの場合、輝度の点では 300 ~ 400 nit 程度が適当だとみなされています。
ある撮影監督さんは「明るい日光の元での屋外シーン、強い光源やプラクティカルライトまたは光の入る窓のある室内のシーンでは、光よりもキャラクターや人物に注目してもらいたい。したがって、肌のトーンが良好に見える明るさと、視聴者の目を引き付ける明るさの間で適切なバランスを見つける必要がある」と仰っていました。輝度を下げるために画像を圧縮しなくてはならないシーンでは、基本的に HDR の画質の方が SDR よりも優れています。そのため、フィニッシングでは HDR が一般的になっていますが、オンセットでは HDR の潜在能力が十分に活用されていないのが現状です。
クライアントさんは、4K のどんなところに可能性に求めていますか?
オンセットで 4K を求める声は、それほど大きくありません。4K を一番望んでいるのはフォーカスプラー (ピントを合わせる第一カメラアシスタント) の方達ですが、それは当然でしょう。画像をシャープに、ズームインしても画質が保たれるようにしたいわけです。その際には、HD 信号よりも、4K 信号の方が確実です。
クライアントさんが 4K の導入に二の足を踏んでいるのは、関心がないのではなく課題が残っているからです。特に、パイプラインや機器に 4K 画像を伝送する方法はたくさんあり、定石が存在しない点が大きいでしょう。
最近のプロジェクトについて教えてください。
2022 年は、壮大なファンタジー冒険シリーズに参加しました。ニュージーランドで撮影が行われた配信用の人気の高いドラマです。プロデューサーさん達と最初に会ったのは、ニュージーランドでロケハンをしているときで、ワークフローの可能性について話し合いました。カメラでの撮影からデイリーの送出とクラウドへのアップロードまで、当社が関わる一連の工程について説明を行いました。仕組み全体を上手く動かす方法の概要を話したところ、どうやってその仕組みが動いているか興味を持ってくれました。
彼らからオンセットの HDR フィニッシングが必要だと伺ったので、編集パイプラインで SDR と HDR を切り替えられるワークフローを構築しました。光量が多いシーンやダイナミックレンジの広い屋外シーンで HDR の映像がどのように見えるか、撮影監督をはじめとする関係者の方が確認できるようにすることが重要でした。この最初の会話で当社の採用が決定し、プロジェクトへの参加が始まりました。
オンセットで HDR フィニッシングが求められるようなプロジェクトには、どんな留意事項がありますか?
実質的にすべてのショットが VFX ショットだったため、メタデータが非常に重要でした。撮影には、ARRI Alexa LF カメラと、DNA などの高性能なレンズが使われました。私たちはカメラを起点としたワークフローを設計しました。そして、オンセットパイプライン全体で、カメラとレンズのすべてのメタデータを読み込めるようにしました。
FS-HDR は、すべてのメタデータを読み取れるため活躍しました。FS-HDR で読み取ったメタデータを DIT カートに取り込みます。DIT は、パイプラインに渡すために作成したメモや情報とその読み取ったメタデータを組み合わせ、さらに QTAKE から送られてくる情報と結合します。QTAKE からデータが供給されると、オンセットのチームはライブデータベースに直接メタデータを追加し、iPad などのデバイスで映像を確認できるようにします。
すべての情報は、最終的に Colorfront を通じてデイリーに提供され、その後、編集に送られます。私たちが作成したのは、カラーが一貫した編集用パイプラインだとも言えます。オンセットやデイリーで確認した映像と、編集チームが作業する映像でカラーを一致させられるのです。これは、編集日程の前倒しにも繋がります。ある程度の自動化が可能になり、作業に素早く取り掛かれるようになりました。さらに世界各地のプロダクション関係者と作業の共有も行えました。ポストプロダクションチームも、オンセットで確認した時と同じ HDR カラースペース (P3-D65) で作業できました。
I/O についても十分に注意が必要でした。使用していたのは AJA Io 4K Plus で、当社では 20 台ほど所有しています。この入出力デバイスの優れた機能により、オンセットで見ていたカラーとデイリーで見ていたカラーを確実に一致させられます。
また、AJA HDR Image Analyzer を使用して、HDR と SDR の分析を切り替えていたため、DIT 主任は撮影監督に確実に適切な情報を提供できました。映像の白飛びが無いことや、夜のシーンで LOG データのダイナミックレンジに収まっていることなどを確認できるようにしていました。
The Rebel Fleet が乗り越えた、業務上の最大の課題は何ですか?
パンデミックが起きたとき、一夜にして仕事の 99% が飛んでしまいました。そこで、事業の強化に再度注力したのです。事態が好転するまでに、もっと強い会社になっていたいと考えたからです。私たちは、効率的な映画のセットについて研究したり、話し合ったりしながら、リモートチームと連携する方法を学びました。
5 週間のロックダウン中に、チームメンバーの 1 人は機材を自宅に持ち帰ってワークフローを組み立て、映画のセットをリモートで機能させる方法を検証しました。オンセットでの撮影に戻ってからも、人員が制限されていた期間があり、このリモートの方法は役に立ちました。
成長の維持も、広い意味での業務上の課題として取り組みました。リモートワークフローの需要に伴い、クライアントやプロジェクトの負荷が増加しました。それに歩調を合わせるには、十分な人数の人材を雇ってプロジェクトの要求に応え、作業の管理と分担を行う方法を見つけなくてはなりませんでした。現在は元に戻っているようですが、サプライチェーンでも問題が発生し、必要な機材が入手しにくい時期もありました。
今後数年間、どんなことに力を注ぎたいとお考えですか?
メタデータをキャプチャする新たな方法を探り、プロダクションのつながり全体でその価値を利用したいと思っています。メタデータは、プロダクションとポストプロダクションのパイプラインをより堅牢かつスマートに、効率化してくれます。たとえば、何日にもわたる撮影では、ファイルサイズや撮影の尺などのシーンデータが分かれば便利でしょう。現在もそのようなデータは存在してはいますが、容易にはアクセスできません。撮影部門など別のチームの手を借りる必要があります。
当社のカスタムソフトウェア「Sidecar」なら、すべてのメタデータを 1 つの場所に集約し、活動の概要を作成してチームやスタジオで共有できます。プロダクションからすべてのメタデータを取り込んで、処理や編集に渡すような些細な作業でも、スクリプターのメモを再入力したり、VFX のメモを Avid に取り込む作業を削減できるため、貴重な時間の節約につながります。
AJA Video Systems について
1993 年の創業以来、AJA Video Systems 社はプロフェッショナルな放送、ポストプロダクション業界に向けて高品質でコスト効率の高いデジタルビデオ製品を供給する、ビデオ インターフェイスや変換ソリューションの大手メーカーです。AJA 製品の設計・製造はカリフォルニア州グラスバレーにある自社の施設内で行われ、世界中のリセラーやシステム インテグレーターを通じて広範囲なチャネルに販売されています。詳細については、同社のウェブサイトをご覧ください。
- ウェブサイト : www.aja.com
- ウェブサイト [日本語] : www.aja-jp.com
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当資料は、現地時間 2023 年 3 月 22 日にメーカー発表されたプレスリリースの抄訳版です。
メーカーリリース原文 : https://www.aja.com/news/story/2128-talking-on-set-production-and-post-trends-with-the-rebel-fleet