ヌーベルバーグ、FUJI ROCK FESTIVAL’22 のライブ制作と自社スタジオで IP オーディオ DANTE を活用した制作ワークフローを導入

世界初の SDI → DANTE の変換に対応する唯一無二の openGear 互換カード OG-DANTE-12GAMで、高い収録品質とコスト削減を実現

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2022 年 7 月に開催された日本最大級の野外音楽フェス『FUJI ROCK FESTIVAL’22』で、収録 / 編集 / YouTube 配信を担当したのが株式会社ヌーベルバーグだ。信号の収録には IP オーディオ規格 DANTE を採用し、AJA 社の 12G-SDI / DANTE 64 チャンネル エンベッダー/ディスエンベッダー OG-DANTE-12GAM を介してオーディオシステムを構築することで、制作現場でのシンプルな運用と高い収録品質を実現している。同社の配信 / 撮影スタジオ『n00b.st』にも導入されている最新の映像制作ワークフローについて話を聞いた。

導入先

株式会社ヌーベルバーグ(以下、ヌーベルバーグ) は、テレビ局の生放送と収録番組でカメラ・音声を中心としたスタジオ技術を提供するほか、各所のロケ番組を担当する撮影チーム (ENG) や、各局への技術者の派遣などを行っている。

代表取締役の池田正義氏は 3 年ほど前に配信事業の専任部署を立ち上げ、eスポーツやライブイベントなどの配信現場に携わっている。さらに 2022 年 3 月には LED ウォールやバーチャルセットを備えた自社スタジオの『n00b.st』をオープンし、同スタジオでの配信事業を手がける。

2022 年 7 月 29 〜 31 日の 3 日間にかけて開催された『FUJI ROCK FESTIVAL’22』(以下、「FUJI ROCK」)では、昨年に引き続き配信関連業務を担当。開催地である苗場スキー場 (新潟県) のイベント会場へ機材、技術チーム、オペレーターを派遣し、収録 / 編集 / YouTube 配信ができるシステムを構築した。その中心に多数導入されているのが AJA 社の製品だ。

FUJI ROCK の配信システム構築と YouTube 配信

FUJI ROCK では現地会場での開催と同時に、FUJI ROCK 公式 YouTube チャンネルでアーティストのパフォーマンスがライブ配信され、最大 20 万人ほどの視聴者が集まった。

イベント会場に用意された合計 9 つのステージのうち主要 4 ステージの配信をヌーベルバーグの配信チームが担当。時間をずらして 3 チャンネルへの YouTube 配信に対応した。

システム構成

インジェスト / 編集

今回の FUJI ROCK 会場システムでは各ステージからの SDI ビデオフィードを、AJA FS4 へ取り込んでいる。FS4 は、 4 チャンネルの 2K/HD/SD または 1 チャンネルの 4K/UHD を処理可能なフレームシンクロナイザー & アップ/ダウン/クロスコンバーターだ。このビデオフィードはテレビ中継向けにフォーマットされた 59.94i (インターレース) で送られてくるため、FS4 でインジェストや YouTube の配信用に 29.97p (プログレッシブ) へと変換している。

19インチラックにKUMO6464とKUMO CP、FS4を配置

19 インチラックに KUMO6464 と KUMO CP、FS4 を配置

変換された 29.97p の信号は 64x64 3G-SDI ルーター AJA KUMO6464 に入力され、各システムへビデオ信号をルーティングする仕組みだ。各ステージの映像を KUMO 6464 経由でビデオ信号を自由にアサインして出力できるため、今回のように複数の YouTube チャンネル (伝送先) に同一の映像が必要な場合はビデオフィードを分配したり、チャンネル毎に別の映像を使用する場合はそれぞれ選択ができるなど、柔軟に対応できるようになっている。

AJA Io 4K Plus と Softron MovieRecorder を利用したインジェストシステム

AJA Io 4K Plus と Softron MovieRecorder を利用したインジェストシステム

今年から導入した Apple Mac Studio にインストールされたインジェストシステム Softron MovieRecorder で、4 ステージ分 × 3 チャンネルの映像 (合計 7 ソース) を取り込み、NAS ストレージ Synology FlashStation FS6400 に収録し続けるワークフローを採用。ネットワークの収録下には編集機 (Mac Studio) を 3 台構え、インジェストされた素材を編集担当者がすぐに追っかけ編集できる体制を取った。MovieRecorder 用の I/O デバイスには Thunderbolt 3 経由でのキャプチャーと出力に対応する AJA Io 4K Plus が導入されている。

編集後の素材は YouTube へのディレイ配信用に、ライブおよび 24/365 運用向けのプレイアウトソリューション Softron OnTheAir から再生。OnTheAir 専用の出力デバイスには、Thunderbolt 3 経由で HDMI 2.0 と 12G-SDI の出力に対応する AJA T-TAP Pro が採用された。

ネットワーク収録 / 冗長収録

Ki Pro Ultra 12G と Ki Pro GO を用いた収録システム

Ki Pro Ultra 12G と Ki Pro GO を用いた収録システム

NAS ストレージ を用いたネットワーク収録のトラブルに備えた冗長収録には、12G-SDI 接続の 4K/UHD と、マルチチャンネル HD の収録と再生に対応する AJA Ki Pro Ultra 12G が導入され、ネットワークを介さないベースバンドでの収録が同時に行われた。

NAS ストレージで収録している 4 ステージ分の映像は、マルチチャンネル H.264 レコーダーの AJA Ki Pro GO でも同様に収録されており、ネットワークは無事だが Mac Studio システムが落ちてしまった場合のバックアップ用のインジェストマシンとして配備されている。

今回の冗長収録には Ki Pro Ultra 12G が 1 台、Ki Pro GO が 2 台導入され、編集とアーカイブ用に “白 (クリーン映像)” を 4 チャンネルずつ、”黒 (テロップ込みの配信映像)“ を 3 チャンネル、バックアップ収録として稼働させていた。昨年までは “白” のみ収録していたが素材だけが残ってしまい、アーカイブ用に編集し直す手間がかかったため、今年からは “黒” も同時収録するシステムが組まれた。

今回 FUJI ROCK の会場で採用されたメインは NAS ストレージを使ったネットワーク収録、バックアップには AJA の Ki Pro シリーズを活用するという二段階の収録構成は、さまざまなライブ配信の現場で活用できそうな冗長化システムだ。

RTMP での YouTube 配信

公式 YouTube チャンネルへの配信には、高性能な 12G-SDI ビデオエンコーディング / デコーディング / ストリーミング / トランスコーディングに対応する AJA BRIDGE LIVE が導入され、RTMP 形式での 3 チャンネル同時配信のエンコーディングに利用された。

BRIDGE LIVE は複数の映像ソースを 1 台で同時に処理できるため、YouTube や Facebook、Twitch など、さまざまな配信プラットフォームに向けての RTMP/S 配信が可能。SRT 伝送にも対応しており、高品質なリモートモニタリングや遠隔地から拠点間で行われるプロダクションやポストプロダクションの現場でも役立つ製品だ。

イベント会場やスタジオなどの出先からの配信や、同社スタジオでの配信など、さまざまな現場・要望に合わせて動くヌーベルバーグでは、複数の入出力ソースを RTMP だけでなく HLS や SRT でも伝送できる BRIDGE LIVE の柔軟性が高く評価されている。

オーディオのエンベデッド / ディスエンベッド

音声の収録・調整には IP オーディオ規格 DANTE を採用。12G-SDI / DANTE 64 チャンネル エンベッダー / ディスエンベッダー AJA OG-DANTE-12GAM を介したオーディオシステムが構築され、OG-DANTE-12GAM で SDI エンベデッドオーディオをディスエンベッドし、DANTE に変換して音声を取り込んでいる。また、DANTE オーディオ用のネットワークは、ステージ映像をメインで収録している NAS ストレージのネットワークとは別回線で組まれた。

レベルコントロールなど諸々の調整を施した音声信号を、SDI 出力のプログラムアウトに対して再度エンベデッドし、収録・配信システムへと伝送するワークフローだ。

今回の FUJI ROCK 会場では、8 式の OG-DANTE-12GAM が導入されている。

  • 各ステージのオーディオディスエンベッド用 × 2 式
  • プレイアウト用 ×2 式
  • プログラムアウトに対するエンベデッド用 × 2 式
  • YouTube 配信の幕間で流すループ再生動画のディスエンベッド用 × 1 式
  • 予備 ×1 式

オーディオ収録、OnTheAir でのプレイアウト (再生)、幕間のループ再生用動画など、全ての音声テイクが openGear カードを経由して DANTE で行われた。

今回 FUJI ROCK の会場で組まれた上記システムは同社スタジオにも同じ製品群で組まれており、クライアント先での配信案件でもシステムごと持ち込んで対応することが増えている。

世界初の openGear 対応 SDI → DANTE 変換カードで、高い収録品質とコスト削減を実現

FUJI ROCK のような音楽イベントの制作現場では、クライアントからはかなりシビアに音声収録の品質が求められる。特に音素材をアナログで扱う場合は、信号変換を繰り返し行うほど品質が落ちやすくなってしまうのが難点だ。

今回ヌーベルバーグは IP オーディオ規格 DANTE を中心にオーディオシステムを組んだことで、SDI からアナログオーディオへ変換する工程が不要となり、音質の劣化を最小限に留めることができた。

SDI ソースを DANTE と連携させるのに会場で活躍した AJA の OG-DANTE-12GAM は昨年 8 月に導入され、現在は同社内のスタジオやクライアント先でもオーディオのエンベデッド / ディスエンベッドにも活用されている。

OG-DANTE-12GAM は openGear 互換の DANTE 対応オーディオ・エンベッダー / ディスエンベッダーで、12G-SDI の入出力ポートを搭載、最大 32 チャンネルのオーディオエンベデッドと 32 チャンネルのディスエンベッドが同時に処理できる製品だ。

DANTE オーディオネットワークは、一般的なネットワークハードウェアや通常のネットワークインフラに接続するだけで、ローカル環境から広範囲のネットワーク環境下でも低遅延のデジタルオーディオ伝送を実現できる。これによりアナログ、AES、MADI インフラに比べて、音声システムの拡張性、簡単な導入、シンプルな配線など多くの利点が得られるのが特徴だ。

映像業界で定評のある openGear 規格のフレーム OG-X-FR に 10 枚の OG-DANTE-12GAM カードを搭載すれば、最大 640 チャンネルのオーディオブリッジも可能。ラックマウントにも対応しているので、あらゆる環境で導入することができる柔軟な製品だ。

池田氏は『放送局で採用されているような音声調整卓専用のマトリクスも便利ですが、システムの規模が大きい分、組み込むとなるとコストが跳ね上がってしまいます。昨年から取り組んでいたワークフローの IP 化に合わせて、出先の配信現場と自社スタジオの両システムに DANTE 規格を採用したので、システム構築のコストをかなり削減することができました。

OG-DANTE-12AM を中心としたワークフローでは、LAN ケーブル 1 本で I/O ボックスへソースを送ることができる構成のシンプルさも気に入っています。自社スタジオではスタジオ 1 とスタジオ 2、それぞれの音声調整卓と I/O ボックスのオーディオ管理は全て同じ DANTE ネットワークで一括制御しています』と述べる。

同社では各スタジオに配備されているスイッチャーも DANTE に対応しており、全てのスタジオからオーディオソースにフルアサインできる形が取られている。アナログオーディオのようにケーブルの差し入れは必要なく、DANTE でお互いのアウトソースを自由に取り合うことが可能なため、スタッフ全員が DANTE 対応の制御用ソフトウェアで同じインターフェイスから制御できるシステムとなっている。

池田氏:『SDI ソースを DANTE に変換できるハードウェア製品はいくつも市場に出ていますが、対応するチャンネル数が増えるのと比例して筐体が増えていくのは、物理的なスペースを考えても現実的ではないと思っていました。OG-DANTE-12GAM だけは市場で唯一、SDI → DANTE の変換に対応できるカード型の製品でした。』

openGear 規格のカード製品でラックマウントが可能な OG-DANTE-12GAM は、今回の FUJI ROCK 側の会場チームを始めさまざまな配信現場で、そのコンパクトに運用できる仕様と音質の高さに定評があったとも池田氏は語る。

今後の展望:映像制作の IP リモート化

ヌーベルバーグの配信事業チームは FUJI ROCK の会場だけでなく、同社スタジオにも積極的に IP 伝送を取り入れているが、今後はさらにその技術と最新製品を活用した “映像制作の IP リモート化” に取り組みたいと、池田氏は話す。

池田氏:『今後は RTMP だけではなく SRT での伝送も積極的に現場へ取り入れたいですね。イベント会場からのソースを東京の noob スタジオへ連携させて、収録 / 編集 / 配信に対応できるリモートワークフローに挑戦したいと思っています。リモート化させれば今までよりも格段に制作予算を削減できるはずです。

自社スタジオと配信現場を繋いだリモート対応を取り入れた場合、映像は ST2110 や SRT 伝送できたとしても、音の伝送システムを別に構築する必要があります。今回の FUJI ROCK で組んだ DANTE 中心の IP オーディオシステムなら、現地に DANTE コントローラーと OG-DANTE-12AM の openGear カードさえマウントすれば、16 チャンネルのオーディオをエンベデッドさせて伝送できるので、この課題解決には持ってこいの製品です。今後の配信現場でも積極的に導入して、検証を続けていきたいですね。』

noob スタジオでは将来的に IP リモート化することを見越して、10Gbps のネット回線を 2 本引き、SRT ソースを何本も受けられるほどの十分な帯域が用意されている。しかしリモートプロダクションや 2 拠点間を繋いだワークフローを組む場合、IP 伝送には SMPTE 規格の SMPTE ST 2110 も必要になるが、伝送する側・受ける側の双方にはまだまだ課題が残っていると池田氏は話す。

池田氏:『特にイベント会場などの配信現場ではインフラ環境が整わず、ネットワークの帯域幅がリモート制作に対応できていないケースが多いです。ですが、インフラが整うのを待っているだけでは、日本国内での技術の進歩が一向に進まなくなってしまう…今ある環境下で最大限何ができるかを考え、そのアイディアに沿って新しい技術・製品を導入することが大切だと思っています。』

OG-DANTE-12GAM をいち早く取り入れ、FUJI ROCK の制作現場と自社スタジオでの IP 制作フローを実現したヌーベルバーグ。見る側も作る側もバラエティに富む昨今の配信業界では、環境に負けないスピード感と新しい発想が求められている。

取材協力

株式会社ヌーベルバーグ

参考

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