ライブコンサートなど大規模なイベントでの撮影から技術面のサポートまでを専門に手掛ける映像制作会社 Zeros in One 社。超大型イベント向けの特注のライブ制作パッケージ提案や、プロダクションチーム、ディレクター、現地クルーと密に連携したワークフローの構築など、趣向を凝らしたライブパフォーマンスを滞りなく進行させる業務に携わっています。その舞台裏を支えている AJA 製品について同社の創業者 Jason Harvey 氏に語っていただきました。
Zeros in One 社は、ライブコンサートなど大規模なイベントでの撮影から技術面のサポートまでを専門に手掛ける、映像制作会社です。今回は、Zeros in One 社の創設者で、Short And Spikey 社を立ち上げた人物でもある Jason Harvey 氏を取材。Harvey 氏は、超大型イベント向けに特注のライブ制作パッケージを提案したり、プロダクションチーム、ディレクター、現地クルーと密に連携しながらワークフローを構築したりなど、趣向を凝らしたライブパフォーマンスを滞りなく進行させる業務に携わっています。取材時はヨーロッパツアー対応中であった Harvey 氏に、忙しい合間を縫ってインタビューに答えてもらいました。
Zeros in One 社を設立した経緯を教えてください。
2020 年に新型コロナの感染拡大で思うようにライブツアーができなくなり、私が所属していた映像制作会社の Short and Spikey 社は、事実上解散となりました。その間しばらくは、フォルクスワーゲン社の技術向けトレーニングビデオを制作していました。その年の終わりには、安全対策を講じたうえで、徐々にライブツアーが再開され始めました。そこで Zeros in One 社を立ち上げ、ライブイベントの世界に戻ることにしたわけです。マスクを着用した状態での搬入出は大変でしたが、私たちが必要とされた作業は全て行いました。制限が緩和され始めると、私はラムシュタイン (ドイツ・ロックバンド) のツアーに 3 か月間同行し、ヨーロッパ、アメリカ、カナダ、メキシコを回りました。毎日の検査など、新型コロナの感染拡大防止策は実施されていたとはいえ、結局のところファンの皆さんはライブコンサートの復活を熱望していたわけです。それからはジェットコースターのように、公演はノンストップで開催されています。
この業界に入ろうと思ったきっかけを教えてください。
最初は機材のレンタル業を行っていました。その後ポストプロダクション業界に移ると、35 mm スライドをビデオテープに変換したり、編集システムの使い方を学んだりしました。少しの間でしたが、フィルム信号をテレビ信号に変換する "テレシネ" の仕事もしていました。映画『フォー・ウェディング』などの作品も担当しましたが、のめり込むほど面白い仕事だとは思えませんでした。暗い部屋から出て、制作の第一線に立ちたいと思ったのです。機材に関する知識があったので、映画制作のさまざまな仕事をフリーランスで受けるようになり、その後エンジニアになりました。それからアーティストのショーケースを行うレコード会社向けに、ライブイベント制作をはじめました。それが、大勢の素晴らしいアーティストたちと一緒に、世界各地のプロジェクトで仕事をしている現在に繋がっています。
これまで一緒に仕事をしてきたミュージシャンについて教えてください。
私が最初に手掛けたプロジェクトの 1 つが、ソロ活動中のジェリ・ハリウェルによる 6 日間の世界一周コンサートでした。 それがシェールとのコラボレーションにも繋がり、当初は 60 公演の予定だったのが、3 年半で 328 公演に達しました。以来、私が手掛けているのは、主にロックンロールです。マドンナ、レディー・ガガ、ジャネット・ジャクソン、ボン・ジョヴィ、ポール・マッカートニーなど、有名アーティストのほとんどと一緒に仕事ができました。
プロジェクトでは、通常、どのような機材が必要になりますか?
必要な機材は、ツアーの規模によってまったく異なります。ラムシュタインのヨーロッパツアーでは、基本的に 12 台のカメラで公演を撮影しています。4 台は有人カメラ、8 台は私が担当するロボットカメラです。これらのカメラソースは、ライブ映像の表示と収録に使うため、メディアサーバーへと送られます。私は、舞台監督や映像チームと協力して公演プランを遂行し、部門を超えた共同作業をサポートしています。カメラをリモート制御したり、カラーコレクションと適切に同期させるために、AJA 製品を数多く使用しています。現在の制作システムでは、3 台の AJA Ki Pro Ultra で公演のメイン収録 (ProRes) を行い、バックアップおよびアーティストに手渡す動画データ用の収録 (H.264) には、Ki Pro GO を使用しています。また、AJA の新製品、Dante AV 4K-T エンコーダーと Dante AV 4K-R デコーダーも導入しました。この Dante AV 4K シリーズは、12G-SDI および HDMI 2.0 の入出力を搭載しており、一般的な 1GigE IP ネットワーク経由で最大 4K/UltraHD までの Dante AV Ultra 信号を送受信できます。
AJA 社の Dante AV 対応製品を使ってみた感想を教えてください。
Dante AV 対応モデルが製品化され、大変嬉しく思っています。私は製品へのフィードバックを提供する、テストユーザーとして Dante AV 4K の開発に参加しました。Dante AV 4K は、音楽関係のライブプロダクションにぴったりの製品だと思います。いろいろ試している段階なので、まだ完全にはこの製品が持つ機能を最大限には活かせてないと思います。公演のたびに会場が変わるので、必要な有線接続を確保できない場合もあり、そのような時は制作にも何かしらの制限が生まれます。とはいえ、Dante AV 4K は素晴らしい機能を発揮しています。特に昨今は IP ネットワークの導入が進んできているので、作業は格段に楽になっています。少し前まで 1GigE IP が標準規格でしたが、業界の IP 化が進むにつれて、10GigE や 40Gig ファイバーへと徐々に移行しています。
現在のプロジェクトのワークフローについて教えてください。
3G 接続の 1080 60p で撮影すると、データ容量は 1 回の公演でカメラ 1 台あたり約 0.5TB になります。RAW 出力をメディアサーバーへ伝送し、コンサート映像にカラーコレクションを施し、フィルターを適用します。その後、信号は LED ビデオスクリーンに送られます。当社は、イベントのライブストリーミングは行っていませんが、公演はすべて収録しています。 光ファイバーのケーブルを観客席の前まで引き、10GigE スイッチを設置して機材の制御に使っています。時には、カメラを追加して欲しい、ドローン映像を取り込みたいなど、通常とは異なるリクエストを受ける場合もあります。公演が終わったら収録したデータを使いやすくするために整理や統合、要するにデータラングリングを行いますが、この作業には結構時間がかかります。AJA の SSD (ソリッドステートドライブ) PAK Media は、メディアを素早く転送できるので、大変重宝しています。映画撮影ならテイクは短時間で、カメラ台数もそれほど多くはありません。ところが、ライブコンサートの収録では 1 テイクが何時間にも及び、多いときには 20 台ものカメラで撮影します。生成されるデータは膨大な量になり、そのすべてを取捨選択できるようにしなくてはなりません。PAK Media が数台あれば、ホテルの部屋で何 TB ものデータを数時間で転送できます。
仕事で一番楽しいこと、逆に最も大変なことは何でしょうか?
理論上は同じ内容のはずでも、公演は "毎回変わる" のが魅力だと思っています。また、現在取り組んでいるプロジェクトでは、花火などの特殊効果を使ったパイロテクニクスと呼ばれる演出を採用する機会が多いのですが、ライブプロダクション環境で爆発や炎など、すべてを管理するのは骨が折れます。機材がぐらぐらと揺れたり、極度の高温にさらされる場合もあります。何が起きた時でも対処できるように、バックアッププランを準備しておく必要があります。いったん幕が開いたら、最後までやり遂げなければなりません。
普段されているお仕事の様子について教えてください。
現在私が参加しているツアーでは巨大なセットを使いますが、舞台を設営するだけでも 5 日かかります。ステージを 2 つ用意しておいて、片方のステージでショーを行っている最中にもう一方で機材のセットアップを進め、ショーとショーの間の時間を短縮しています。搬入が終わると、私の仕事が始まります。公演の前日に搬入し、その日のうちに各部門が設営を行い、メインシステムの準備を整えます。ときには午前 2 時頃までかかります。混乱を防ぎ、効率的かつ安全に準備が進められるよう、各部門の作業順序は明確に決められています。本番当日は、ステージカメラの搬入と配線を仕上げて、テクニカルチェックを実施します。地域にもより異なりますが、概ね午後 5 時 ~ 6 時に開演し、午後 8 時 ~ 10 時くらいに終演となります。
制作中は、映像チーム全員に役割が振り分けられ、スタッフは休んでいる暇もありません。ディレクターは、カメラとライブスイッチングの担当者に指示を出します。私はカラーコレクション、リアルタイムでのシェーディング作業、数台のロボットカメラの操作を担当します。メディアサーバーを管理したり、別のロボットカメラを動かすスタッフもいます。ほとんどの制作スタッフは、LED スクリーンの設置やカメラの操作など、複数の仕事を掛け持ちます。制作チームの責任者は、全体のオペレーション確認し、人手が足りないところを補います。そして公演が終わると、ただちにすべてを解体し、搬入とは逆の順序で搬出作業を進めます。スタッフの多くは以前から一緒に働いているので、今ではメンテナンスが行き届いた機械のように円滑に作業が進みます。その様子は本当に、見事なものです。そして私たちはツアーバスに乗り込み、次の目的地へと向かいます。
プロジェクトで使われている AJA 製品を教えてください。
私は、次の AJA 製品を所有しています。
- FS2 × 3 台
- FS-HDR × 1 台
- Ki Pro Ultra × 3 台
- Ki Pro GO × 1 台
- PAK Media ドライブ × 数台
- Dante AV 4K-T × 2 台
- Dante AV 4K-R × 2 台
- Hi5 ミニコンバーター × 引き出し一杯
また、現在私たちの制作ラックには 10 台の FiDO が取り付けてあり、ステージの視覚効果に使用しています。FS2 と FS-HDR はカラーコレクションと、今ではロボットカメラにも使っています。FS-HDR は、何系統ものチャンネル入力が可能で、機器の設定を固定する必要がないのが特長です。FS-HDR の設定は、ウェブブラウザから GUI を呼び出して変更できます。公演によって開演時間は異なり、晴れている日もあれば薄暗い日もあるため、その場の状況に応じてカラーを調整する必要があります。AJA FS シリーズのフレーム同期範囲は優れており、使いやすさも抜群です。私は FS2 と FS-HDR を組み合わせて使うのが気に入っています。新しい Dante AV 4K は使い始めたばかりですが、今のところ全く問題なく動作しています。40℃ を超える環境で、ラックに装着して酷使しましたが、人間は溶けそうになっても、機材は暑さに耐えてくれました。
AJA 製品を使用する理由を教えてください。
私は、20 年近く AJA 製品を愛用しています。使いやすく頑丈で、ツアーに連れて行っても安心です。AJA 製品は接続すればすぐに動作します。他社製品では、そううまくはいきません。問題が起きた場合も AJA のサポートに問い合わせれば、私の想像よりも早く解決策を見つけて連絡してくれます。AJA は、顧客のニーズに耳を傾け、顧客からの意見を基に製品を開発しています。AJA が顧客からのフィードバックに直接応えた製品は、私がすぐに思い付くだけで 3 製品は挙げられます。ユーザーの声を元に開発された直近の製品は、Dante AV 4K レシーバーおよびトランスミッターです。私は AJA 製品が好きで、繰り返し購入しています。
今注目しているテクノロジーや、映像制作に関するトレンドはありますか? その理由も教えてください。
テクノロジーは絶えず進化しているので、すべてを追いかけるのは不可能でしょう。とはいえ、次にどのようなリクエストを受けるかは分かりませんから、いつもテクノロジーの動向には注意するようにしています。私が業界に入った頃の標準規格は SD で、次に HD、そして 3G へと変化しました。今は 4K や HDR への転換点にいます。HDR でのライブプロダクションには、膨大な投資と技術知識が必要で一般化しているとは言い切れませんが、それが標準になる日は近いはずです。いつでも新しいおもちゃで遊んでいたいのなら、その使い方を理解して、上手に使いこなす必要があると思っています。
ライブプロダクションのプロフェッショナルたちに向けて、アドバイスをお願いします。
夢をあきらめないことです。15 歳のとき、私はマドンナのような大スターのイベントを手掛けてみたいと考えていました。しかし、周囲からは無理だと言われていました。それから 20 年近く経ち、現在ではマドンナのワールドツアーを任されるようになっています。今に至るまでに、もちろん努力はしました。私たちは簡単に満足を得られる世界に生きています。多くの人は、TikTok や YouTube の動画ですら、舞台裏で何が行われているのかなど、全く理解していません。撮影、編集、アップロードには、たくさんの困難な作業がつきものです。粘り強く、頑張りぬくしかないのです。実践してきた時間、技術を磨くためにかけた時間は、決して裏切りません。年月を重ねるほどスキルは上がります。私自身もまだ勉強中です。事実、25 歳のカメラマンから、存在すら知らなかったドロップダウンメニューのオプションを教わったばかりです。学びに終わりはないのです。
AJA Video Systems について
1993 年創業の AJA Video Systems 社は、プロフェッショナルな放送、ポストプロダクション業界に向けに高品質でコスト効率の高いデジタルビデオ製品を提供する、ビデオインターフェイスや変換ソリューションの大手メーカーです。AJA 製品の設計・製造はカリフォルニア州グラスバレーにある自社の施設内で行われ、世界中のリセラーやシステムインテグレーターを通じ、広範囲な流通ネットワークで販売されています。詳細については同社のウェブサイトをご確認ください。AJA 製品の設計・製造はカリフォルニア州グラスバレーにある自社の施設内で行われ、世界中のリセラーやシステムインテグレーターを通じて広範囲なチャネルに販売されています。詳細については、同社のウェブサイトをご覧ください。
- ウェブサイト : www.aja.com
- ウェブサイト [日本語] : www.aja-jp.com
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当資料は、現地時間 2023 年 9 月 28 日にメーカー発表されたプレスリリースの抄訳版です。
メーカーリリース原文 : https://www.aja.com/news/story/2181-zeros-in-one-rocks-aja-gear-on-tour